３次元ＧＩＳに関するコンジョイント分析結果

大場亨

1.目的
視点を自由に変えたり、仮想的な空間の中で建築物を建替えたりすることができる都市景観比較検討システムは、合意形成に大変有益であると期待されている。しかしその整備費用が大きいことと、住民にとっての便益が評価されたことがないことから、都市景観比較検討システムの構築のための予算が地方公共団体で認められた例がない。そこで日頃からまちづくりに参加しているのでない人も含めて都市景観比較検討システムに対する支払意思額を推測することにより、その財政支出の妥当性を検討する。

2.開発された都市景観比較検討システムの概要
開発された都市景観比較検討システムは、次の機能を備えている。なお当システムは、総務省の統合型GISの普及に向けた空間データ更新手法に関する調査研究のモデル地区実証実験のために開発されたものである。
1)街灯・舗装シミュレーション
8種類のデザインの街灯から任意の街灯を選び、操作者の指定する場所に配置することができる。同様に、10種類の舗装材料から任意の舗装材料を選び、道路上に敷くことができる。
2)新築建築物の景観シミュレーション
建築が計画されている建築物を任意の位置に表示することができる。
3)放置自転車の景観シミュレーション
操作者が指定した場所に、指定した数の放置自転車や花壇を配置することができる。
4)都市計画決定内容の表示
地面の上に都市計画道路の計画線などを表示することができる。

3.コンジョイント分析の方法
都市景観比較検討システムの便益を評価するため、本稿ではコンジョイント分析を用いる。コンジョイント分析とは、複数の製品を回答者に提示し、製品の好ましさを質問することで、製品の属性別に回答者の選好を評価する方法である。
本テストを２回に分けて実施した。1回めとして、2002年5月22日（水）に東京ビックサイトで開催された自治体総合フェア2002における自治体ワークショップセミナーの参加者を対象に、都市景観比較検討システムを実演した後、調査を行った。2回めとして、2002年5月30日（木）に早稲田大学メディアネットワークセンターのコンピュータ教室において、GISの実習の授業を受講している同大学社会科学部の第1学年から第4学年の学生を対象に、1回めと同じ調査を行った。
有効回答数を表1に示す。2回の本テストで得られた有効回答の合計は81票である。

表1 主たる職業別の有効回答数

都市景観比較検討システムを稼動することが可能な性能を有するコンピュータを回答者は必ずしも所有しているとは思われないため、アンケート調査ではテレビゲーム機が販売されていると仮定した。表2に示す8種類の製品プロファイル全てについて好ましい順位を回答者につけていただいた。この製品を購入することにより他への支出を減らさざるをえないことを念頭に置くこと、その製品で見ることができる都市空間は回答者の自宅の最寄り駅から半径500メートルの区域に限られること、その製品で他のゲームはできないこと、まちの中を歩いたり空を飛んだりしながら任意の視点で立体的に都市景観を見ることができる基本機能はどの製品にもあることを回答の前提とした。

表2 回答者に提示した8種類の製品プロファイル

4.コンジョイント分析の結果及び考察
各シミュレーションの平均相対重要度を表3に示す。回答者全員について見ると、最も重視されているのは新築建築物の景観シミュレーションであり、次いで重視されているのは街灯・舗装の変更シミュレーション、放置自転車の景観シミュレーションである。

表3 主たる職業別の平均相対重要度

各シミュレーションの支払意思額(WTP)を表4に示す。どの職業においても新築建築物の景観シミュレーションに対するWTPが最も大きい。特に民間会社の役員・社員に限ると、新築建築物の景観シミュレーションに対するWTPは8,810円になる。次いでWTPが大きいのは街灯・舗装の変更シミュレーション、放置自転車の景観シミュレーションである。

表4 主たる職業別の各シミュレーションに対する支払意思額(WTP)